基本的には、就業規則に何を書こうが自由です。
経営者の熱い思いを言葉にしてもらって、一向に構いません。
しかし、いざ、それを実行するとなると、いろいろな問題が生じます。
例を挙げてみましょう。
《例1》就業規則第〇〇条
兼業は禁止する。もし違反したときは、減給または出勤停止とする。
これ、心情はお察しします。
雇い主にしてみれば、自分の会社の業務に専念して欲しい。
他社でアルバイトなど、もっての外!
だから禁止して、違反したら懲戒処分にする。
でもこの条文、法的には実行は無理です。
もし実行しようものなら、大きな労務トラブルのリスクを負うこととなります。
なぜか?
(理由1)憲法によって、職業選択の自由が保障されています。
兼業を禁止することは、この職業選択の自由を制限することとなります。
(理由2)通常、兼業(アルバイト等)は、就業時間外に行います。
つまり、労働義務のないプライベートな時間の行動を制限することなど、許されるわけがありません。
この規定がまかり通るなら、極端な話、
「終業後、映画を観に行ってはならない」だとか、
「休日に、デートしてはならない」などの規定も、まかり通ってしまいます。
ですから、この条文が実行されるのは、極めて稀なケースとなります。
現実としては、御社での業務を不能または困難としてしまうような、
あるいは、企業秩序を著しく乱すような場合にのみ、兼業を禁止することができます。
では、この条文は全く意味がないかというと、そんなことはありません。
この条文があることによって、従業員の方の兼業(アルバイト等)への抑止力となります。
兼業(アルバイト等)を思いとどまらせる効果があります。
会社側の、本業に専念してもらいたいという思いを伝えることにもなります。
ですから、ぜひ、この条文はこのまま残しておいてください。
しかしもし、従業員の方の兼業(アルバイト等)が発覚しても、絶対に懲戒処分を科さないでください。
せいぜい、優しく諭す程度にとどめてください。お願いします。
《例2》就業規則第××条
次のいずれかに該当した場合、懲戒解雇とする
①・・・・・・・・・・
②・・・・・・・・・・
この条文に何ら問題はありません。
しかしもし、御社の社長が、「一度ウチの会社で共に働いた者を、懲戒解雇になど絶対にしない!」
と思っていたとします。
なんと男気のある社長でしょう。
でも、この社長の思いも、労務管理担当者にしっかりと伝わっていなければ、
条文の文言通りに、懲戒解雇処分にしてしまうでしょう。
社長の熱い思いなど、知る由もなく・・・
かと言って、この懲戒解雇規定がなくてもよいかというと、そんなことはありません。
というより、絶対に懲戒解雇規定は必要です。
いくら社長の思いがあったとしても、万が一間違って、とんでもないブラック社員を雇ってしまった場合、
この規定がなければ、ブラック社員のなすがまま、
傍若無人な態度を戒めるすべがありません。
ですから、懲戒解雇規定は、会社のリスク管理の一手段として、
絶対に定めておくべきです。
ただし、実行する際は慎重に、
社長の思いを十分に汲んだ上で実行すべきです。
その他にも、実行段階で「無効」や「権利濫用」とされてしまう場合が、判例等に多くみられます。
ほんの少し注意して運用していれば、あるいは、
ポイントをしっかりおさえてさえおけば、何ら問題とならなかったものが、
ちょっとしたことで無効とされてしまうのです。
そんなことが起きないように、労務管理担当者向けに(裏)運用マニュアルが必要なのです。
労務管理担当者だけが知る、実務的な運用マニュアルが必要となるのです。